みなさん、羊飼い型リーダーシップという言葉をご存知でしょうか?
羊の群れに向かって「自分についてこい」と言っても、羊はついてきません。
群れの前に立つのではなく、ゴールだけを決めて、間違った方向に向かう羊や遅れる羊を後方から支援する形で、チーム全体でゴールを目指すのが羊飼い型リーダーシップと言われています。
これの真逆が、一昔前によく見られた強烈なリーダーシップで、トップダウンで部下や社員を引っ張っていくタイプです。
それぞれ一長一短があり、会社の成長ステージによって使い分けることができるものですが、多様性・グローバリズムが求められる現在のビジネス環境に向いているリーダーシップは羊飼い型ではないかと個人的に考えます。
その理由は、次の通りです。
1、弱みを見せることがチームをまとめる
トップダウン型リーダーシップでは、基本的に自分の弱みをさらけ出すことはしません。
なぜなら、それは強力なリーダーシップ像の構築にはマイナスになるからです。
例えが良くないかもしれませんが、現在のロシアを率いているプーチン氏などはその典型。
周囲に隙を一切見せることなく、ややもすれば恐怖政治という言葉がそのまま当てはまるタイプのリーダーです。
自分の弱みを見せるということは、相手も弱みを見せることができる、ということです。
これが、相手との信頼関係の構築につながります。
多種多様な価値観を持つメンバーが働く現在のビジネス環境において、リーダーが率先して自分の弱みをさらけ出すことは、価値観の垣根を超えてチームを1つにまとめることに間違いなく貢献します。
2、共感力がコミュニケーションを促進する
トップダウン型のリーダーによく見られる行動が「すぐに人の話をさえぎる」「人の話を最後まで聞かない」「自分の話ばかりする(話が長い)」というものです。
これには、立場上のパワーバランスも関係しています。
上司が話を遮ってきたら、部下は口を閉じるしかありません。
人の上に立つ者は、自分が立場上の優位性を持っていることを常に意識しながら話す必要があります。
共感力とは、相手の話を最後まで聞いて、意図をよくよく理解し、その上で意図に沿ったレスポンスを返すということだと自分は思っています。
聞いて、理解して、返すというのは、コミュニケーションの基礎でもありますが、これができないリーダーは意外に多い気がします。
一方で、羊飼い型のリーダーは、共感力がコミュニケーションを促進することをよく理解しています。
多種多様な価値観を持つメンバーが働く現在のビジネス環境において、円滑なコミュニケーションがいかに大事であるかは、言うまでもないかと思います。
3、人材育成につながる
仕事を部下に任せられないことで、悩んでいる経営者や幹部は多いです。
理由は色々あるかと思いますが、根本的な原因はリーダー自身が「後方支援に徹することが出来ていない」ことだと考えます。
後方支援に徹するということは、最初から仕事を任せるということを意味します。
もちろん、最初は経験不足などで失敗したり、うまく行かなかたりします。
それらを踏まえて、見守って、必要に応じてサポートし、決して途中で渡した仕事を巻き取らないことが大事です。
トップダウン型リーダーシップでは、社長や幹部だけが強くなり、それ以外のメンバーがほとんど育たないという状況を自ら生み出すことになります。
以上が、多様性・グローバリズムが求められる現在のビジネス環境には、羊飼い型リーダーシップが向いていると思う理由です。
さて、ここで幾つか気をつけないことがあります。
1つ目は、冒頭で書いた通り、会社の成長ステージよっては、トップダウン型の強烈なリーダーシップが必要とされる場面があることです。
例えば、創業間もない頃は会社の方向性も定まらないことが多いため、ここは強いリーダーシップでもって、色々なことをトップダウンで決める方がかえってチームがまとまることがあります。
同じく、当初考えていたビジネスがうまく行かず、事業を大きく方向転換(ピボット)する際も、やはり強いリーダーシップが有効に働きます。新規事業の立ち上げ期も同じ文脈です。
しかし、ビジネスがある程度軌道に乗って、さらなる成長を目指すステージになってからは、羊飼い型リーダーシップの方が圧倒的にメリットが多いように思います。
2つ目は、異なるリーダーシップのタイプを外部・内部から求められる場面です。
このような場面で、個人的に一番やってはいけないと思うことは、明日から突然、自分自身のリーダーシップをタイプを変えてしまうことです。
リーダーシップのタイプとは、言わばその人の個性であり、性格であり、人格でもあります。
これをある日に突然変えることは、むしろ現場の混乱や、せっかく築いた信頼関係を自ら壊してしまうことになってしまいます。
そういった場合、やり方は2つあるかと考えます。
まず、分かりやすいのが、次に必要とされるリーダーシップのタイプを持ち合わせる人にバトンタッチすることです。
自分がトップダウン型リーダーシップの持ち主で、さらなる会社の成長のために羊飼い型リーダーシップが必要ということであれば、代表を交代するタイミングが来ていると言えます。
もう1つは、組織をグループに分けて、それぞれのグループを率いるリーダーに異なるリーダーシップのタイプの人材をアサインするやり方です。
例えば、自分自身が羊飼い型リーダーシップで、ある期間はトップダウン型リーダーシップが必要ということであれば、グループ単位でそのようなタイプのリーダーに組織の一部を率いてもらえれば良いのです。
これは、グループ経営をやっている規模の大きい会社でも当てはまるかと思います。
本社から見て、それぞれの子会社のステージは異なって当然です。
事業としてまだまだ十分に立ち上がっていない子会社であればトップダウン型を、ある程度軌道に乗っているのであれば羊飼い型を、それぞれ必要なリーダーシップ像に掲げれば良いのだと思います。
繰り返しますが、自分の個人的な意見としては、長年築き上げてきたリーダーシップのタイプを、ある日に突然変えることはオススメしません。
周りから何と言われようと、ここは変えるべきではなく、必要に応じて、異なるリーダーシップのタイプを持つ人物にバトンタッチ、または組織の一部の運営を担ってもらうのがベストかと思います。